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冒険少年――5

 会話が途絶えた。
 美帆は帰っていくだろうと思った。だが、沈黙の中、美帆は動こうとしなかった。じっと俊哉を見つめていた。
 まだ言いたいことがあるのか。美帆の表情が、この部屋に入ってきたときと変わっていることに気づいた。沈黙の中で、美帆の気持ちに変化があったのだと感じた。
「どうかしたのか?」
 と、俊哉は訊いた。
 美帆はすぐに返事をしなかった。
「どうして父さんを嫌うの?」
 そう訊いてきたのは、数秒後だった。
「自分は好きなのかよ」
「好きってこともないけど……でも、自分の父親だし、そんなに嫌うこともないと思うんだけど」
 直樹が美帆にだけ優しかったということはなかった。ようするに姉貴は鈍感なんだ。俊哉はそう思っていた。おやじの冷たさに、敏感に反応するだけの感受性がないのさ。俊哉はかるく美帆を軽蔑する。でも、この鈍感さって、もしかすると女の特性かもな。ふとそんなことを思ったりする。
「なにがおかしいのよ」
 美帆は少し怒ったような口調で言った。
 俊哉は自分が苦笑を漏らしたことを知っていた。
「気にするなよ。おれと姉貴じゃ考え方がちがうだけさ」
「どうちがうのよ」
「説明してもわからないさ」
「なによ」
「もう帰れよ」
「わかったわよ」
「おやすみ」
「あんた、やっぱり父さんに似てるわ」
「うるせえ」
「またくるから。今日はゆっくりと話ができなかったからね」
 美帆はにやりと笑ってドアを閉めた。
 おれとおやじは似てるか――しゃくにさわるが、言われたのははじめてではなかった。昔から直樹に似ているとよく言われた。そのたびに鏡を見て、おやじとちがうところを探したものだった。
「叔父さんににてハンサムだね」
 三つ上の従姉に言われたことがある。
 ちっとも嬉しくなかった。
「どうしてお父さんを嫌うの……か」
 俊哉は美帆の言葉を言ってみた。
「昔言われたのさ、おれは子供が嫌いなんだってな」
 それは本当だった。はっきり覚えている。五歳の時だ。直樹に甘えようとしたとき、そう言われたのだ。妙なもので、その言葉ははっきり覚えているくせに、どんな状況で聞かされたのか、どうしても思い出せないのだ。覚えているのは、それを言ったときのおやじの冷たい声と態度だ。あれだけははっきりと覚えている。たしかにおやじはハンサムだ。顔立ちが整っているだけに、冷たい表情がこれでもかというほどの効果をあげる。まったく……俊哉は冷笑を浮かべる。
「俊哉、覚えておけ。おれをあてにするな。おまえが大学を出るまでは面倒を見る。それは責任だ。おまえはおれの子供だからな。だからといっておれのことを父親と思わなくてもいい。おれはおまえを愛せない。おまえもおれを愛さなくてもいい。おまえはひとりだ。おれもひとりだ。人間はひとりだ。はっきりさせておこう。おれは子供が嫌いなんだ」
 いまならきっと叫んだだろうな。じゃあなんで結婚して子供を作ったんだよ! でも、あのときのおれはまだほんの子供だった。心がどこまでも冷えていくのを感じていただけだ。
 金と愛情。どちらが重要だろう。俊哉は時々、いや実にしばしば考えることがある。
 たとえば俊哉は生まれてこの方、金で苦労したことはなかった。
 父の直樹は株式会社ヤガミの重役だった。株式会社ヤガミは直樹の祖父が創業者であり、会社は今も創業者一族のものだった。玩具の金型製作からはじまり、その後、工場無人化を進めるための省力機械の設計・製作を主事業として展開してきた。さらに専用機械の設計・製作も行っていた。
 現在、株式会社ヤガミの社長は矢上康一。直樹の父親、俊哉の祖父だ。副社長は長男である忠明が務め、やがては社長になる予定だった。次男の直樹は副社長になる。
 十年ほど前まで、会社の業績は順調だった。しかし、現社長が新規事業に手を出し、それが結果として失敗していからというもの、会社の業績は徐々に下降線を辿り始めた。現在も下降している。
 明日倒産するようなことはないにしても、長期的に見れば、今のうちに手を打っておかなければいずれ経営が危機的状況を迎えるだろうことは、誰の目にも明らかだった。
 現副社長などは、そういう意味ではかなり深刻に状況を受け止めていたが、父である社長にその認識は薄かった。
 現社長は、創業者である自分の父親に対するコンプレックスからかワンマンな性格で、聞く耳を持たない人物だった。
 直樹はどう考えているのだろう。家庭で仕事の話はしない男だった。
 それはともかく、金と愛情、はたしてどっちが大切なのだろう。
 あほらしい。どちらも大切だ。何事も程度の問題さ。金も愛情も、多すぎても少なすぎてもだめなのかもしれない。わかったことを言うなよ。もうひとりの自分が嘲笑う。小僧が生意気なことを言うんじゃないよ。そうだな、頭でわかってるつもりだが、本当のところはわかっちゃいないんだ。わからなくても別にかまやしない。だっておれは十六だぜ。
 それはまあいい。おやじのことだ。おやじは会社のことをどう思っているのかってことだ――きっとどうでもいいんだろう。冷たく言い放つのは、もう一人の自分だ。そいつはいつだって冷笑的に世間を見ている。そいつの声にしたがっていると大きく道を誤ることはない。俊哉は心の中にいるもう一人の自分に、かなり信頼を置いていた。現実にいる誰かよりも、よほど頼りになる相棒だ。
 とにかく、おやじはそんな奴だ。たしかにおれはおやじに似ているのかもしれない。嫌うというのなら、それは一種の近親憎悪かもしれない。実際のところ、自分がほんとうに父親を嫌っているのかどうか。時々、どうしようもない怒りに襲われることがあったが、しかし、普段は赤の他人を眺めているようなものだ。怒りも憎しみも、もう感じない。おれは子供を愛せない。あの言葉はそっくりそのまま、未来のおれが、息子か、あるいは娘に、言う言葉なのかもしれない。ま、それもおれが家庭を持てばの話だが。いまのところ、結婚する気はなかった。
 おふくろはどうしてあんな男と結婚したんだろう。思えばおふくろはありふれた女だった。
 なんだか、重要なことを聞きそびれたような気がするな。
 じゃあ、彼女を探すか。またもう一人の自分が言う。
 俊哉はふいをつかれたような気がした。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学


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