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冒険少年――11

(あまり見るなよ)
 奴はそう言ったが、俊哉は男から目を逸らさなかった。
(相手に気づかれるとまずいことになるかもしれないぞ)
 それはわかっていた。しかし、男が身にまとっている不吉な影……そうか、あの男は不吉なんだ。俊哉は男から感じた違和感の理由がそのとき見えたような気がした。音楽を楽しんでいる雰囲気ではない。それはよくわかっていたのだが、それ以上、それだけではない何かを感じ、その理由を考えていた。いまその理由がわかった。男の全身からゆらゆらと陽炎のように立ち昇る気配をどう呼ぶか、そのことを考え続け、その答えをいま見つけたのだ。男は不吉な影そのものだった。
(そこまでわかっているのなら、もうやめろ)
 気になるんだよ、奴が。
(関係のない男だろう)
 わかってるって、だが――
(だが、なんだ?)
 俊哉は答えることができなかった。相手がやばそうな相手だということを知りつつ、なお相手を刺激するような真似をしている。いったいどういうことだろう。これじゃまるで喧嘩を売ってるみたいじゃないか。
(ほら、気がついたぞ)
 男が俊哉の視線に気づいたのは、気配を感じたからというわけではなかった。おそらく帰ろうとしたのだろう。演奏しているブルースに背を向けようとして、体を反転させたとき、俊哉に気づいたのだ。男の視線は俊哉を通り過ぎようとして、ふと気づき、もう一度戻って確認し、そして気づいた、そんな感じだった。
 間違いないのは、男と目があったということだ。その眼差しを受け止めたとき、俊哉の心に小さいが後悔の気持ちが芽生えた。奴の言うことを聞くべきだったかな。まるで底なしの穴のような、男の目だった。虚ろでありながら、しかし、どこかに冷笑が潜んでいた。常に何かを嘲笑いながら、誰も、何も――自分さえも愛していない者の目だ。なにをしでかすかわからない危険な気配を、よりいっそう強く感じる。
 俊哉は相手が尋常の者ではないと気づきつつも、視線を外そうとしなかった。
(馬鹿だな)
 奴が苦笑まじりに言った。
 俊哉はその声を無視した。男の視線から目を逸らさなかったのは、絶対に逃げないという意志の表れでもあった。志乃ちゃんに言ったとおり、俊哉は習った古武道を喧嘩に使ったことがなかった。争いごとが嫌いだというのも本当だ。しかし、大人しいだけの少年は、本質的に殺人を目的とした古武道を習ったりしないものだ。小太刀を手に戦うということは、茶道や華道を習うこととはわけが違う。
(馬鹿なことはするなよ)
 奴はたしなめるように言った。
 馬鹿なことって何だ。
(喧嘩は嫌いなんだろう)
 大嫌いだ。争いごとなんて嫌いだよ。
(だったら、さっさと目をそらせよ。まるで挑戦を受けて立ってるみたいじゃないか)
 売られた喧嘩なら買うさ。
(自信満々だな。だが、相手を侮るなよ)
 侮っちゃいない。
(いや、侮ってる。見知らぬ相手とむやみに事は構えない。武道をする者の心構えだ。下手が上手に勝つこともある。志乃ちゃんに言われたろう)
 そう、それはその通りだった。真剣勝負は、ルールに則って行われる試合ではない。技量が相手より上回っているから必ず勝てるというものではなかった。争いの術を習うというのは、言ってみれば保険のようなものだと思っていた。使わないにこしたことはないのだ。
 男は自分から視線を逸らそうとはしなかった。
 いつまでこの状態が続くのかわからないが、おれの方からは絶対に目を逸らさない。それが俊哉の決意だ。
(馬鹿だなあ)
 自分の中から、一種の暴力衝動のようなものが湧き上がってくるのを、はっきりと感じていた。男を見ていると、あえて争いを避ける必要がないような気持ちになるのだ。
 俊哉は男が自分に向って近づいていくる様子を想像した。
(あいつとやりあうのか)
 成り行きだよ。
(本当に馬鹿だよ)
 想像の中で、男はすでに俊哉の前に立っていた。
「兄ちゃん」
 と、男は言った。錆びた歯車が軋むような声だった。その顔には不適な笑みが浮んでいた。男には誰に対する恐れもないのだということがわかる笑いだった。本当に笑っているのだろうか……笑いと呼ぶには、それはありまにもぎこちなかった。これまでの人生で一度も笑ったことのない男が笑えば、あるいはこんな不器用な笑顔になるかもしれない。
 俊哉は黙っていた。
「おれとやる気か」
 俊哉は深呼吸をしそうになる自分を抑えた。呼吸を読まれるのはまずい。
「あんた次第さ」
「おれはまだ何もしちゃいない。眼を飛ばしてきたのそっちだろうが」
「音楽を楽しんでいる男の目じゃない」
「どんな聞き方をしようがおれの勝手だよ」
「そのうち聞いているだけじゃすまなくなる」
「どうしてそう思う」
「あんたからは不吉なにおいがする。音楽を楽しむような心の潤いがあるとは思えない」
「言ってくれるな」
 男はまた笑った。目と口が真っ黒に見えた。漆黒の闇が仮面を被っているのだ。俊哉は男の正体をそのとき見た。
「おれが怖くないのか」
「怖くない。いつだって相手をしてやる」
 俊哉は嘘をついた。その嘘が見抜かれているような気がした。
 男は笑った。声を上げて。その哄笑は、がらんどうに響く雷鳴のようだった。俊哉はひやりとした。
「がきのくせにえらい自信だな」
「そりゃみっちり鍛えている」
「アマチュアとプロは違うぜ」
 男の笑いが向こうに見えた。たしかに笑った。ここまでのことは、俊哉の想像の世界のことだ。だが、今見ている男の笑い顔は、現実のものだった。当然のことに、男は元の場所を一歩も動いていない。目も口も、普通の人間の口で、決して、そこから男の本質である漆黒の闇が覗いている――ということもなかった。
 しかし、男の笑い顔は、俊哉が想像した笑い顔と驚くほど似ていた。
 男が背を向けたとき、俊哉は正直なところほっとした。
 そのまま男は立ち去った。
「またおうぜ、続きはそのときだ」
 俊哉は男の声を聞いたような気がした。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学


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