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冒険少年――10

 それにしても、おやじとおふくろはどんな青春時代を送ったんだろう。俊哉はブルースを尾行しながら、そんなことを考えていた。
(親のことが気になるのか)
 奴がからかうように言った。
 そうだな、気になるな。今はじめておやじとおふくろの青春時代はどんなだったんだろうって、考えるようになった。
(青春時代か、大時代だな)
 他に呼び方があるのか。青春時代って言い方が古臭けりゃ、若かったころって言えばいいのかよ。
(そうとんがるなよ。おやじさんにもおふくろさんにも、若かったころはあったさ。二人は同い年なんだぜ)
 そうだった。すっかり忘れていたが、おやじとおふくろは同い年だったんだ。指摘されて、そのときはじめて気がついたような気がしたが、もちろんそんなことはない。いくら断絶があるからといって――断絶か、これも古いな――親の歳くらいは知っている。
 いつもと違うな。俊哉は自分がいつもと違うことを意識していた。志乃ちゃんから高校時代のおふくろについて聞かされてから、妙なことが気になって仕方がない。
(妙ってことはないだろう)
 奴は笑っている。まあ、笑われてもしかたがないな。俊哉は納得していた。奴の言うとおりだ。それは、妙なことじゃない。両親のことを気にかけるというのは、当たり前のことかもしれない。
 おふくろは不良だった。志乃ちゃんの話だと硬派の不良だ。なあ、おやじとおふくろって同じ学校だったのか?
(大学が同じだったということは知っているが、それ以上のことは知らない。お前が知っている以上のことは何も知らないよ)
 そう、知るはずがない。まるで他人のように話しているが、相手は自分自身なのだ。俊哉は苦笑する。おふくろは不良だった。あちこちで喧嘩をしていた。それでもどうにか大学へは進学したのだ。そしておやじと知り合った。ふたりは結婚する。そのころ、素行はおさまっていたのだろうか。普通に考えれば、おやじとおふくろに接点はない。それともおやじもいまはあんなだが、わかいころはいっぱしの不良だったのだろうか。いや、それは考えられない。いくらなんでもそれは――。
 前を行く、ブルースの背中に、なぜか母親の姿が重なった。
 まさかね――俊哉は思わず苦笑を漏らす。おふくろは鼻歌程度しか歌わない。ミュージシャンとあのおふくろを重ねるなんて……
(そうなのかな)
 何だよ、なにかまちがってるか?
(それにしてはおふくろさん、音楽にやたらと詳しかったと思わないか)
 その指摘は、俊哉をはっとさせた。
(鼻歌程度しかうたわないそのへんのおばさんにしては、聞く音楽の幅が広かったじゃないか)
 ……それは、ある。たしかにおふくろと音楽のかかわりについて言えば、鼻歌程度しか歌わないおばさんにしては、所有しているCDの数は相当なものだった。よく口ずさんでいた古いフォークソング、他にもジャズ、ブルース、民族音楽、シャンソン、ラテン、クラッシク、ほとんどあらゆるジャンルのCDを持っていた。歌謡曲――《ちあきなおみ》だったかな――もあった。普通では売られていないような歌手のCDも持っていた。たとえばきわめて政治色の強い唄を歌うような歌手のCDだ。
(おふくろさんはほんとうに普通のおばさんだったのか)
 奴の声は笑いを含んでいた。俊哉のあさはかさを、嘲っているようだった。
 俊哉は考えをあらためざるを得なかった。おやじとの関係も含め、あのふたりのことについて、おれは何も知らない。そのことを、認めざるをえなかった。

 徒歩で十五分。
 俊哉がブルースの尾行に要した時間だ。
 目的は果たした。ブルースの住まいを突き止めること。今日の尾行のテーマだ。
 俊哉は戸惑い、驚いていた。
 ブルースが入っていったのは、とある高級マンションだった。セキュリティも万全のそのマンションは、この小さな地方都市では最高級の部類に属する。そうとうの経済力がなければすめるような場所ではなかった。
(音楽的な才能に恵まれた貧しい少女という予想は外れたな)
 予想じゃない。勝手な想像さ。
(人はいつだって勝手な想像をする。しかし、それがいつか現実のように思えてくる)
 …………
(やっぱりお前は甘いよ)
 甘いさ。だからって誰かに迷惑をかけるわけじゃない。
 ブルースがマンションに入っていた後も、俊哉はしばらくその場を動かなかった。



 想像していたような人間ではなかったが、ブルースが俊哉にとって魅力的であることに変わりはなかった。いや、むしろ興味という点では、知る前よりもさらに強く興味を感じるようになっていた。この街でおそらくトップクラスの高級マンションに住みながらブルースを歌う彼女は、いったい何者だろう。両親と暮らしているのだろうか。まさかひとりであんなところに住んでいるとも思えなかった。3LDK。一人で暮らすには広すぎる部屋だ。それだけ恵まれた暮らしをしながら、なお彼女が歌うブルースは心に響いた。そして、あの顔の傷だ。左頬に何本も走るあの傷。高級マンションとそれらはミスマッチで、そのことがいよいよ俊哉のブルースに対する興味をつのらせるのだった。
 住まいを突き止めた後も、俊哉は時間の許す限り、ブルースの路上ライブを聴きに行った。
 その男に気づいたのは、俊哉がブルースの住まいを突き止めてから一週間ほど後のことだった。ブルースの路上ライブには集まる年齢層は広い。十代から五十代まで、様々な年齢層の人びとが集まってくる。その男は四十代くらいだった。細身でわりと背が高く、白髪まじりの強い髪質の男だった。服装は地味で、肌の色艶が悪かった。
 俊哉がその男が気になったのは、その目つきだった。集まった聴衆の一番後ろで目立たないように――本当にそうしていたのかどうかわからないが、俊哉にはそのように見えた――している男の目は、絶対に音楽を楽しんでいる男の目つきではなかった。
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