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冒険少年――8



 おふくろは長谷川きよしが好きだったな。俊哉は考えていた。
(なんだ、やっぱりおふくろかさんか)
 もう一人の自分が嘲るように言う。
 うるせえよ。思い出しているだけだろう。
(あいたいんだろう)
 あいたいさ。けど言っとくぜ、おふくろが恋しいからじゃない。はっきりさせたいんだ。なぜ家を出たのか。おやじのことを本当はどう思っていたのか。志乃ちゃんと話していて、よけいそんな気になってきたのさ。
(熱くなるなよ)
 熱くなってなんかいなさ。
(長谷川きよしだろう――)
 そうだ、おふくろは長谷川きよしが好きだった。
(知ってるさ。おふくろさんは長谷川きよしの古いLPをほとんど持っていた。CD化されたものもほとんど持っていたはずだ)
 よく知ってるじゃないか。
(当たり前だろう。おれはおまえだよ)
 もちろんそうだ。俊哉にはわかっている。自分自身と語る。この遊びをはじめていったいどれくらいになるだろう。最近じゃ、ほんとうにもうひとりの自分がどこかにいるみたいに感じる。おれは正常かな……俊哉は微かに笑った。その笑みはどこかに自嘲的な色合いがあった。
(いいじゃないか、正常だろうが異常だろうが。第一、正常と異常というのは、はっきりと線引きのできるものじゃないんだぜ)
 わかってるよ。それはおれが読んだ本に書いてあったことだ――っておまえはおれなんだけどな。
(おふくろさんは長谷川きよしのCDを持っていた。それがどうかしたのか?)
 いつCDを買いにいったんだろうって思ったのさ。あのおばさんがCDを持っている。それは俊哉にとってちょっとした驚きだった。長谷川きよしだけじゃない。おれが子供の頃から聞かされた育った古いフォーク歌手――まだほとんどが現役だから古いというのはあてはまらないかもしれない――のCDも含めて、そうった文化的なものは、あの家の家具みたいなおふくろには一番不似合いなものみたいじゃないか。
(おふくろさんに失礼だぞ)
 そうだな。たしかにそうかもしれない。母親の人格をあまりにもないがしろにしているように思え、さすがに俊哉も自己嫌悪を覚えた。
(ブルースのことだろう)
 そうだった、ブルースだ。
 俊哉が彼女を見たのは、まだほんの一月ほど前のことだった。場所は津市の繁華街の外れ、路上だ。その日、繁華街のアーケード街の中にある本屋にやってきていた。本屋は好きで、特に買いたい本がなくても、暇なときはよく行く場所のひとつだった。しばらく立ち読みをして、結局、何も買わず、本屋を出て、あてもなく歩いていた。すでに学校は休学していた。アルバイトは休みだった。アーケードを出たとき、そのメロディが聞こえた。聞いたとき足が止まったのは、聞き覚えのあるメロディだったからだ。
 それはハーモニカのメロディだった。非凡なものを感じさせた。うまいと感じさせるだけのものを持っていた。次に、聞き覚えのあるメロディだと思った。が、そのメロディをどこで聞いたのか、すぐに思い出せなかった。メロディを思い出すまでの、数十秒、俊哉は立ち止まっていた。
 ヨコスカブルースだ――思い出したとき、真っ先にやってきたのは驚きだった。長谷川きよしはアルバム『街角』の中で、南正人の名曲『ヨコスカブルース』をカバーしていた。南正人も母親の持っていたCDで聞いた。俊哉は長谷川きよしの歌うヨコスカブルースが好きだった。特に間奏がいい。ツインギターで演奏される間奏は、技術云々をこえて、そのフレーズが好きだ。
 そのとき聞こえてきたハーモニカは、ほぼ完全に『ヨコスカブルース』のギターのフレーズをコピーしていた。そうとわかったとき、俊哉はハーモニカのメロディが聞こえてくる方に向って歩き出していた。
 角を曲がると、人だかりができていた。そう多くはなかったが、向こう側が見えない程度の人数はいた。
 俊哉は見物人の後ろから、中を覗き込んだ。
 彼女が歌っていた。それが出会いだった。
 正直驚いた。ハーモニカの音が聞こえるということは誰かが吹いているからだが、まさかそれが女性だとは思わなかった。彼女はギターも弾いていた。7thのコードを刻むギターにも切れがあった。ストリートミュージシャンはあまたいる。女性の弾き語りももちろんいる。しかし、ハーモニカホルダーを首にかけ、しかも相当のテクニックの持ち主となると、珍しかった。もっとも津市など小さな町だ。もっと大きな都会に行けばこういうタイプのストリートミュージシャンもいるのかもしれない。
 ハーモニカの間奏が終わると、彼女は歌いはじめた。凄いのはハーモニカだけではなかった。声も迫力があった。彼女は身長はあるが細身だった。しかし、ハスキーな声は声量があり、パワーがあった。いかにもブルースが似合いそうな声だった。歌もうまかった。彼女は美人だった。俊哉はこのとき、まだ右側からしか彼女を見ていなかったのだ。
(そうだよ、おまえは右側からしか彼女を見ていなかった)
 仕方がないだろう。
(物事の一面しか見ないのはおまえのよくない癖さ)
 きいたふうなことを言うな。
(おふくろさんのことだってそうだろう)
 それとこれとは違う。
(同じだよ)
 もう一人の自分が嘲笑う。
 勝手にしろ。俊哉は心の中で吐き捨てた。
『ヨコスカブルース』を歌い終わると、彼女は何も言わず、次の曲を歌いはじめた。どうやらそれはオリジナル曲のようだった。その曲はブルースそのものではなかったが、近い雰囲気を持っていた。素直にいい曲だと思った。

 この世の中のことを なにひとつ知らなくても 悲しみだけはわかる
 この世の中のことを なにひとつ知らなくても 絶望はいつだってそこにある
 わたしには明日を信じない 今日の幸せも 明日を約束することはない
 …………

 彼女、いくつなんだ。俊哉は曲を聞きながらそんなことを考えていた。
 まだ十分若いように見えた。自分とそれほど歳はちがわないのかもしれない。それにしてはネガティブな曲だ。ただ彼女の持つ暗さは、無意味な明るさと希望を歌うメジャーな歌手よりも、実は俊哉の気分にあっていた。
(暗いねえ、おまえも)
 もうひとりに自分がまた嘲笑う。
 ただ明るいなんて馬鹿だよ。
(親が育て方をまちがったな。明日を信じないというのは、結局、人間不信なんだよ)
 そうなのか? 俊哉は自分自身が言っているはずの言葉に、戸惑いを覚えた。なぜって、そんなことは考えてもみなかったからだ。明日を信じないのは、人間不信――そうなのか?
(おまえ、人は、本当は誰も愛さないと思っているだろう)
 …………
(愛されたことがないから、わからないのさ。人は本当に人を愛することができるということを信じきれない。愛されることのない人間は孤独だ。誰にも愛されず、たった一人で生きていくのなら、救いはない。いまだけの人間は明日に希望を託せない)
 ……おまえ、本当におれなのか。
 笑い声が聞こえたような気がした。もちろん錯覚だ。こいつはおれの潜在意識の声だよ。そうだとも、わかってるさ。
 あの日、三曲、彼女の歌を聴いた。最後の歌を歌い終わると、彼女はハーモニカホルダーを外し、そばにおいてあったバックにいれ、ギターをケースにしまった。
 彼女が歌い終わると俊哉はすぐにその場を離れた。
 俊哉はその女性ストリートミュージシャンを気に入ってしまった。
 次の休み、俊哉は同じ場所に行った。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学


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