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冒険少年――7

 俊哉が失踪した母親に対して怒りを感じていないというのはほんとだった。強がりでもなければ、ポーズでもない。しかし、まったく気にならないかというとそうでもなかった。母親が消えてまだそれほど日がたっていないころ、ふと頭を過ぎったあの疑問――おふくろはあんなやつとどうして結婚したのか。あんなやつというのは言うまでもなく父親のことだ。その疑問は、常に俊哉の胸のどこかにあり、決して消えることがなかった。志乃ちゃんなら知っているだろうか。
 その質問をする前に、訊いておかなければならないことがある。俊哉にとっては重要なことだ。
「志乃ちゃん、おれとおふくろって似てるのかな?」
「似てるよ」
 あっさりと言われた。思わず笑みが漏れた。
「そんなこと言われたことがないよ。おやじに似ているとはよく言われるけれど」
「嬉しくないんだろう」
「おやじに似てるってこと」
「そうだよ」
「おれはおやじが嫌いだよ」
「とにかく、あんたはあの子に似てるよ。不器用なところがそっくりだ」
「不器用って……そうかもな」
「学校のことだってそうだろう。休学した理由は?」
「本当は辞めようと思ってたんだ。おやじがね、一年間は休学にしろって言った。まあそれもありかなって、思ったのさ」
「嫌いなお父さんの言うことでも聞くんだね」
 俊哉は苦笑して、
「たしかに好きじゃないけどね――他に言いようがないから嫌いだって言ってるけど、まあたしかに嫌いなんだけど――どう言えばいいんだろう、どうでもいいって感じに近いんだよね」
 と、言った。言い訳じみているとは自分でも思った。しかしそうとしか言いようがなかった。直樹に対しては、ときどき殺意に似た感情にかられることがある。あくまでも似ているということで、殺意そのものでは、もちろんない。それに――ここが重要だ――いつもってわけじゃない。そう、絶対にいつもじゃない。では普段はどうなのか。もちろんおやじのことは好きじゃないさ。でもそれは憎悪とイコールではない。積極的に憎むのではなく、他人のように感じられるのだ。
「で、理由は? 学校に行きたくなくなった理由は」
 俊哉は答えられなかった。その問題については、自分なりに、これまで散々考えていた。だが答えは出なかった。つまるところ、なんとなくとしか言いようがなかった。答えは出なかったが、自分の選んだ道――つまり学校を休学したことへの後悔はなかった。
「面白くなかったからな――何だろう、すっきりしたものが欲しかった。校則とか受験勉強とか、全てのことがもやもやして、てんですっきりしていない。苛々させることばかりだった。まあそんな感じかな……うまく言えない。金持ちのどら息子のわがままだと思ってもらっていいよ。せいぜいその程度だ。絶対に違うと言えるのは、おふくろのことが原因じゃないってことだ」
 自分が、誰でも納得する理由を説明できないことはわかっていた。若い頃は誰だって迷うことが多い。あるいはそう言ってくれる者もいるかもしれない。しかし、別の見方もある。甘えだ。学校を辞めるの休学をするのと騒いでいるが、ようするに経済的に恵まれているから、そんないい気なことを言っていられるのだ。同い年で、世の荒波にもまれ、懸命に社会を泳いでいる人間はいくらでもいる。そんなことはわかっているさ。わかっていても、おれはこのやり方を選んだ。なぜってもうひとりのおれがやれと言ったからだ。ほんとうにあいつは妙なやつだ――って、結局、おれなんだけどな。やっぱり甘えてるな。学校を辞めるでもなく、行くでもない。宙ぶらりんの状態で、どんな理由を並べてみても、結局誰も納得させることはできない。それでも自分に正直になろうとすればこういうことになる。
「そういうところだよ、あの子に似ているというのは」
「…………」
「自分のことをけっこう冷静に見ているくせに、することは無茶なことばかり。考えてみればたちが悪いねえ。自分の無茶をしりながら無茶をするなんて、確信犯じゃないか。そのくせ動機については自分でも説明できない。悪いことをするときは、いいわけくらい考えておくものだよ。あの子もそうだった」
「おふくろが――」
「しょっちゅう先生にたてついてね。校則は頭から無視する、先生には口答えをする、他校の生徒とは喧嘩をする――どうしてそんなことをしたのかと訊いてもまともに答えない。そのときはそうした方がいいと思ったとか、言ってもわからないとか、そんなことばかり言ってた――こちらを納得させる理由なんて一度も聞かされたことがなかったねえ」
 志乃ちゃんは懐かしそうに言った。おふくろに困らされたことを喜んでいるみたいだった。おふくろにももうひとりの自分がいたのかもしれない。しかし、それとは別に、俊哉は驚きを感じていた。
「おふくろ、喧嘩なんかしたの?」
「したよ。手がつけられなかった」
 俊哉は母親の姿を思い浮かべた。普通のおばさんだった。友人は、綺麗なおふくろさんじゃないかと言ったが、おれの眼から見ればおばさんだ。少なくとも喧嘩沙汰とは無縁に見えた。今も昔も――。
「あの子も小太刀の稽古に熱心だったよ」
「まじ? そんな話しはじめて聞いたよ」
「そうだったかね」
 俊哉は志乃ちゃんを眺めた。志乃ちゃんは意識的におふくろのそういった部分を話さなかったんだ。間違いない。
「筋はよかったね。でも、喧嘩沙汰を起こして破門した。その点、おまえは立派だよ。小太刀の技を喧嘩に使わないから」
「喧嘩なんて嫌いだよ」
 それは本心だった。俊哉は暴力が嫌いだった。あんな不快なものはない。
「おふくろも口下手だったのさ」
 と、俊哉は言った。
「言葉を信じていないんだろう」
 と、志乃ちゃんは言った。
「おふくろが?」
「そしておまえもね。言葉で説明できることなんて本当は何もない。そう思っているんだろう」
 言われてみればそうかもしれない。言葉はどこかで嘘をつく。たしかにそんな気分が自分の中にはある。志乃ちゃんはやっぱり良き理解者だと思った。自分の中で形にならない思いに形を与えてくれる。
「でも――」
「どうした?」
「はじめてだね、志乃ちゃんからおふくろのことをこんなに聞かされたのは」
「そうだったかねえ」
「おふくろは目立たない、地味なおばさんだと思っていたよ。まさか高校時代に停学処分になっていたなんて思ってもみなかった。おふくろもけっこうやるじゃないか」
 本気でそう思った。地味なただのおばさんでもなかったんだ。かつてはとんがっていたんだ。もし、いまのおれがそのころのおふくろにあったらどう思うんだろう。俊哉の心に、細身で長身、目つきの鋭い少女の姿が浮んだ。どこかに近寄りがたい雰囲気があり、いつも何かに怒っているような少女。だめだね、俊哉は心の中で言った。その少女とおふくろがどうしても重ならない。
(そりゃおまえがほんとうのおふくろさんを知らないからさ)
 もう一人の自分が言った。笑ってるじゃないか。
 そうだな、たしかに知らないかもな。
(じゃあ、やっぱりおふくろさんを探し出して確かめてみるか)
 確かめるってなにを――俊哉は戸惑っていた。まただ。もうひとりの自分は、どうやらなんとしてもおふくろを探し出したいらしい。それって甘えてるんじゃないのか。
「大学に行ってからも色々あったんだよ」
 志乃ちゃんは苦笑に紛らせて言った。それは少し誤魔化しているようにも見えた。でも、なにを誤魔化す? おふくろの過去か。
「色々なことって」
「またいつか教えてあげるよ」
「何だよ――」
 俊哉は苦笑するしかなかった。
「おやじはおふくろの色々なことを知っていて結婚したのかな」
「そりゃ知ってるよ」
 まさか――俊哉は思わずもれそうになった言葉を飲み込んだ。
「そうなのか」
 かわりに出たのがそれだった、
「そうだよ」
 志乃ちゃんの言葉には、当て推量で言っているような曖昧さは少しも感じられなかった。ふたりが結婚をした経緯を、志乃ちゃんは知っているのだ。もしかしたら、おれが学校を休学したからこんな話をしてくれているのだろうか。少なくともおふくろが姿を消したから、こんな打ち明け話をはじめてわけじゃないだろう。だよな――俊哉は確信を得るためにもう一人の自分に話しかけた。
(決まっているさ)
 やつははっきりと答えた。それで確信がさらに強く、深くなかった。
「あの二人はおまえが思っている以上に深いところで結びついているのかもしれないよ。お互いを深く理解しあっているのかもしれない」
「まさか……」
 俊哉は言った。さすがににわかには信じることができなかった。
 志乃ちゃんは、曖昧な感じ、推測として、というニュアンスを言葉にまじえている。が、そうじゃないことはわかっていた。あのふたりは深いところでお互いを理解しあっている――志乃ちゃんはそう思っている。あるいは何かを知っている……じゃあなぜ言わないんだろう。
(だからさ、言ってるじゃないか、おふくろを探すしかないって)
 黙ってろよ、いまは何も訊いてねえよ。
 もうひとりの俊哉は、俊哉の抗議を笑って聞き流した。
(これでまた疑惑が大きくなったな)
 疑惑? なんのことだ?
(おやじがおふくろの行く先について知っているかもしれないという疑惑さ)
 そう、それは確かにそうだ。
「わたしも詳しく知らないからね。言ったろう、あの子はいいわけひとつ考えもせずに悪さをしたって。自分のことを説明するのがいやなんだろう。俊哉もそうだろう」
 たしかにそうだった。俊哉は自分の行動や気持ちを説明するのが嫌いだった。
 ほんとうにおやじはおふくろの居所を知っているのかもしれない。
 帰ることになった。
 志乃ちゃんは玄関まで送ってくれた。
「本当のことを言うとさ、志乃ちゃんはおふくろを探し出して、成敗するんじゃないかと思ったんだ。おやじがおふくろを探しているふりをしているのは、そうさせないためじゃないかと思ってたんだぜ、おれ」
 志乃ちゃんは静かに微笑んだだけだった。
 おふくろを見つけても成敗はしそうもないな。少し安心している自分に気づき、自分の中にある普通っぽさを、少しだけ癪だと感じた。やっぱり人とちがった自分でいたいじゃないか。
(そう思うことが普通だよ)
 もう一人の自分が言う。
 じゃあ、普通って何だよ。俊哉は言い返す。
(自分で考えな)
 俊哉は自転車をこぎながら、自分自身と話し合っていた。
 この後の予定は決まっていた。
 ブルースの唄を聴くのだ。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学


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